ローザンヌ運動の歴史


 

 

‎(c) Billy Graham Center, Wheaton College
‎(c) Billy Graham Center, Wheaton College

 第1回ローザンヌ世界宣教会議」は1974年に開かれ、全世界の福音派諸教会にビジョンと活力と協力のネットワークを与えました。そして、宣教の新しいチャレンジに満ちた21世紀、世界の注目する「第3回ローザンヌ世界宣教会議(ケープタウン2010)」が2010年10月16日から25日にかけて南アフリカのケープタウンで開催されました。これを機にもう一度ローザンヌ世界宣教運動の精神にふれ、全世界の教会がともに世界宣教に積極的に取り組む好機が到来します。

 

 近代の世界宣教運動の結束を促し、力を吹き込んだ1910年の「エジンバラ世界宣教会議」から百年の時が流れ、世界の事情は大きく変化しました。二つの大きな戦争を経て、政治的、経済的、精神的枠組みは大きく変わり、更に21世紀に入っても高齢化、環境破壊、テロリズムや戦争、貧困や抑圧、メディアの発達など、対応しきれない問題が次々に深刻化していきます。私たちには変わらない福音のすべてを、全教会が心をあわせて、時代に柔軟に対応しつつ地の果てまで宣べ伝える使命があります。世界の福音派諸教会は2010年、「第3回ローザンヌ世界宣教会議(ケープタウン2010)」に大きな期待をもって集い、新たな歩みを始めました。

 

 

ローザンヌ世界宣教運動

 1910年の「エジンバラ世界宣教会議」から世界宣教運動は大きく進展しました。宣教協力は教会一致運動ともあいまって世界教会会議(WCC)が設立されました。その一方、主流教会の合理主義的色彩の強い神学を憂う世界の福音派諸教会の祈りは、1974年に「第1回ローザンヌ世界宣教会議」として結実し、スイスのローザンヌに150カ国から福音派教会の指導者が集いました。このローザンヌ世界宣教会議の主要な貢献は3点です。

 第1に「ローザンヌ誓約」です。起草者ジョン・ストットらは福音的宣教の使命を明文化しました。「ローザンヌ誓約」はその後の福音派教会の宣教に関する考え方やあり方に大きな影響を与えてきました。 第2に、「未伝の人々の発見」です。当時、世界教会会議は、既に世界の全国家に教会は存在するのでこれ以上の宣教師は不要であると発表していました。第3の貢献は、ホリスティック、包括的な宣教理解の再発見です。

 「第1回ローザンヌ世界宣教会議」は会議で終わりませんでした。「ローザンヌ世界宣教委員会」が構成され、ローザンヌ世界宣教運動として引き継がれました。出版、セミナー、国際会議などを通して、福音派諸教会を結ぶ大きな運動体となって世界の福音宣教を励ましてきました。

 ローザンヌ世界宣教運動は触媒のような働き、すなわち、すでにある宣教の取り組みの数々が出会うネットワークの場を提供します。都市部伝道、児童伝道、イスラム伝道、ユダヤ人伝道、メディア伝道などの宣教分野ごとの交わりも多く設立されました。また、アジア、アフリカ、ヨーロッパというような地域別の交わりも展開されています。

 1989年には、フィリピンのマニラで持たれた「第2回ローザンヌ世界宣教会議」で「マニラ宣言」が出されますがローザンヌ世界宣教運動は以降、一時混乱し力が分散され失速することになります。一部の派生運動は活発に続けられましたが、「ローザンヌ世界宣教委員会」の働きは大きく制限されてしまった状態で21世紀を迎えたのです。

 しかし、混迷を深める世界情勢の中、宣教の使命を共有するローザンヌ世界宣教運動の再興を期待する世界中の声は多大でした。主は祈りに答えてくださり、近年、運動は紆余曲折を経ながら幾多の課題を解決し、あらためて活力を取り戻しつつありました。

 ひとつの転機になったのは、2004年にタイのパタヤで開かれた「ローザンヌ・フォーラム2004」いう集まりです。「第2回ローザンヌ世界宣教会議」において心配を残した種々の課題には丁寧な手だてがほどこされ、新しいリーダーシップが整えられ、21世紀の福音宣教のために運動の勢いが回復されつつあります。この集まり以後、世界各地で2010年の「第3回ローザンヌ世界宣教会議(ケープタウン2010)」の開催を望む声が高まってきました。新しい心で、私たちの時代の新しい事情に沿った宣教協力のうねりを期待して、世界はもう一度手を取り合って立ち上がったのです。

 

 

日本の教会とローザンヌ運動

 日本の福音派教会はローザンヌ世界宣教運動のはじまりから積極的に参画しました。1970年代、80年代は日本福音同盟がローザンヌ日本コミッティーをつくり積極的に推進していました。関西ミッションリサーチセンターは「誰もが知りたいローザンヌ・シリーズ」を刊行して運動の精神の紹介と普及に力を尽くしました。

現在、日本の教会がローザンヌ世界宣教運動についてあまり知らないことには事情があります。1989年の「第2回ローザンヌ世界宣教会議」以降、日本の福音派諸教会は当時のローザンヌ世界宣教運動に疑問と不安を感じ、教会を守る配慮から運動との積極的な関わりを停止したのです。

 関西ミッションリサーチセンターは、2002年にローザンヌ世界宣教運動の再興の兆しの報に触れました。同センターには1974年の「第1回ローザンヌ世界宣教会議」以来、日本福音同盟とよい協力関係の中で、ローザンヌ運動と日本の福音派諸教会の架け橋の一翼を担ってきた背景があります。このたびの運動再興の事情を確認し、必要ならば再び日本の福音派諸教会との橋渡しとなるべく使命を感じました。

 このような経緯の中、再興に尽力した世界の指導者たちと連絡をとり、また、アジアで続けられてきたローザンヌ運動に関わりを深めてきました。2002年夏の「第5回アジア・ローザンヌ宣教会議」、2004年秋の「ローザンヌ・フォーラム2004」、2006年夏の「第6回アジア・ローザンヌ宣教会議」を紹介し、諸教会からの参加を募りました。2004年にはパタヤにてローザンヌ・ネットワーク・ジャパンが結成され、同センターは連絡所となりました。

 

 

2004年以降の運動

 2004年9月、タイのパタヤでローザンヌ世界宣教委員会主催による「ローザンヌ・フォーラム2004」が開かれ、「新たなビジョン、新たな心、刷新された召命」をテーマに掲げて世界130カ国から1500人の教会指導者、神学者、宣教指導者が参加、同運動の世界規模の復調を見ました。

 「多元主義的なポストモダンの時代におけるキリストのユニークさ」「職場での伝道」「児童伝道」「メディアとインターネット」「9・11テロ後の世界と伝道」など、世界宣教に関連した31の緊急課題をテーマにしたグループに分かれ、会期中に23時間にわたる討議やグループ間の分かち合いを重ねました。その成果は翌年編集され、Lausanne Occasional Papers (LOPs)として出版されました。その後、「新世代会議 Younger Leaders Gathering(クアラルンプール・2006年)」や「ローザンヌ国際指導者会議(ブダペスト・2007年)」などが開かれました。

 2002年の大会前に、アジア・ローザンヌ世界宣教委員会委員長であり、またソウルでの大会実行委員長でもあった韓国の李鐘潤牧師が日本の参加者を探して神戸の旧友に連絡を取ってくださいました。それにより関西ミッションリサーチセンターはローザンヌ運動の現況を知りました。日本福音同盟との良い関係のなかで関西ミッションリサーチセンターは「ローザンヌ・フォーラム2004」に日本からの参加者を募りましたところ、約20名の方々が参加しました。そこで世界の指導者と世界宣教のビジョンを共有し、交わりと研鑽が宣教の推進力となることを実感しました。

 

 そして、会期中に今後のローザンヌ運動情報や相互の情報交換のための「ローザンヌ・ネットワーク・ジャパン(LNJ)」を発足し、連絡所が関西ミッションリサーチセンターに置かれました。LNJは希望者に不定期でニュースをインターネット配信することを始めました。関西ミッションリサーチセンターは2007年に、「ローザンヌ・フォーラム2004」の成果であるLOPsの日本語版権を取得し、翻訳出版の第一 弾として「世界のユダヤ人伝道の今後」を出版しました。